2009年7月3日金曜日

蜃気楼の向こうに


バグダッド・カフェ:1987(西ドイツ)

ラスベガスのそば、砂漠のど真ん中、ルート66沿いにある小さなカフェ。
その名も「バグダッド・カフェ」。
今となってみれば、皮肉な名前だよな。

その店に、夫と喧嘩して車から飛び出したドイツ人女性ジャスミンがやってくる。お店にたむろする不思議な客たちと太った中年女性しかも外国人のジャスミンの織りなす人間模様。
ジャスミンを演じるマリアンネ・ゼーゲブレヒトがいいんです!
重いトランクを引きずりながら砂漠を歩き、部屋を借り、いきなり店員になり、ヌードのモデルになってみたり、ジャスミンの「あっ!」と驚く展開に、不機嫌そうな周囲の人々が次第に彼女の影響を受けていく様がみごと。
ジャスミンがみんなのが救いになっていく。
それを、遠くから望遠鏡でたえず覗いている情けない夫。この人笑えるんです。

場面場面で大笑いするようなコメディーなのですが、主題歌がまったくちがうのね。
「Calling」。
この曲で、この作品は表面の明るさに隠されたジャスミンの悲しみを僕らは知ることになる。
この曲があるから、この映画は重層的な構造を持ち得た。
この曲が、この映画を世界に広げたんだと思います。
もし、この曲が暗いなぁ、なんて思う人がいたら、気をつけた方がいい。もしかしたら、暗さが良くないという今となっては化石のような「ネアカ主義者」かもしれません。
暗い明るいは、判断基準にはなり得ません。この映画は物語はあくまでも明るく、主題歌はあくまでも暗いです。でもその開きと違いが懐の深さとなって、作品の奥行きを作り出してるんだよな。

いつか、ルート66沿いに実在する本物のバグダッド・カフェでコーヒーを飲んでみたいですね。
それから、この映画を制作人々は、舞台はアメリカなのにドイツの人々です。しかも西ドイツ。
そう、この映画が創られた頃は、まだ東西が分断されていたんだな。
「ベルリン 天使の詩」では分断されている様子を描いているけれども、この映画では、むしろもっと個人的な悲しみとして描いているような気がします。ジャスミンという女性の、明るさの向こうに垣間見える悲しみは、故郷の分断というのもあるかもしれません。
それから、変人の画家を往年のウェスタン俳優ジャック・パランスが演じています。
素晴らしい俳優だったんだな。彼の人生最後の頃の作品です。

「Calling you」 Jevetta Steele 『BAGDAD CAFE』

0 件のコメント:

Powered By Blogger