2009年7月26日日曜日

八月の濡れた砂

八月の濡れた砂:1972

この映画は、藤田敏八監督の最高傑作だと僕は思っています。

街から海辺にやってきた高校生と、その不良の友人、そしてレイプされた女の子と過ごすひと夏の想い出。
なんかこう書くとちょっと綺麗事過ぎるな。
この映画を初めて観たとき、日活の作品だったので、ポルノだと思い込んで観てました。
主人公の一人、不良青年を演じるのが村野武範さん。彼はテレビの「飛び出せ青春!」の先生でしたから、映画の役柄とのギャップで、僕は頭ん中こんがらがっていた中学生でした。

でも、
今でも夏になると、ふと思い出す映画なんだ。「旅の重さ」と並んでね。
たぶん、
そういう作品は傑作なんだと一人で勝手に思い込んでます。

若い時代の苛立ち、大人に媚びることのできない一途さ、肉体と精神の分離、恥ずかしい言動や行為、言葉ではもう表現不可能な「気分」、大人が決めつけた青春なんて嘘っぱちだという確信・・・・そんな感覚が映画のラストに集約されている。
だから、
今も思い出すのは、この映画のラストのヨットの場面なんだ。
けだるい、なのに鋭い目をした男たちの表情。
唇を噛みしめながらショットガンを撃つ少女(テレサ野田さん)。
やがて、空撮になりヨットが海の中で輝きながら、まわりながら小さくなっていく。
音楽は石川セリさんの「八月の濡れた砂」。
日本映画で音楽を思い出せる作品て、かつては驚くほど少なかったわけで、その意味でもこの映画が傑作だという証明なんじゃないかな。

映画の中でなにか具体的な結論が出るわけじゃないのに、登場人物それぞれにどこか惹かれる。
まさに、七十年代の空気を映していると思う。
八十年代以降、このシリアスな空気感が失われ、簡単に手軽に笑える映画やスペクタクルな映画が量産されていくんですが、この手のじっと人間を見つめるまなざしはどんどん薄れていきました。

時代はまた一回りし、この映画の空気もかつて以上に理解できる人も増えているんじゃないかな、と思うんですけどね。

映画『八月の濡れた砂』ラストシーン

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