2009年3月14日土曜日

祭りの準備


このエッセー自体今から十一年も前に書いた小篇です。
ですが、ATGの名作『祭りの準備』をよく伝えていると思うので、アップします。
実際今では文芸座は復活してますね!
時が経つのは、本当に速い。

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『祭りの準備という映画』

去年、池袋の文芸座という映画館が閉館した。その地下には「文芸地下」という邦画専門の小屋があり、「ル・ピリエ」という小劇場が併設されていた。あそこは、いわば20代の僕のすべてが凝縮していた場所だった。

二十歳の時、友達とオールナイトでATGの作品を毎週のように見た。ATGというのは、当時今では考えられないほどの低予算で上質の映画を制作していこうと燃えていた一群の人々のことだ。
そして、その作品の中に「祭りの準備」という映画があった。

昭和三十年代初頭。主人公の楯男は高知の中村の信用金庫につとめていた。希望のない日々に疲れていた彼には、ひとつだけ夢があった。いつか東京に出て、シナリオ作家になるという夢。様々な出来事があり、やがて、彼は故郷を捨てる決心をする。誰も見送りに来ない駅。だが、たまたま一人だけ人の眼を盗むようにして彼に近づいてきた男がいる。殺人を犯し、警察に追われる友達の利広だ。彼は楯男の決心を知らない。ただ、逃げるため、金をせびりに来たのだ。
楯男が東京に行く決心を知ると、利広は、せびり取った金と、食いかけのあんパンを、楯男に突っ返す。
列車の発車時刻になる。.........

○国鉄窪川駅ーホーム

        列車のデッキに立った楯男。ホームで見送る利広が、急に大発見したように叫ぶ。

利広「楯男!わりゃ、菊男さんに作ってもろうた背広着ちょるじゃいか!」
楯男「うん......これか?」
利広「(ポンポン肩を叩き)これで、われ、東京の銀座歩いてみよ......菊男さんは大喜びぜよ!」
       
 発車のベルが鳴り響く。

利広「頑張ってやれや、楯男.....頑張れや!」
       
列車はゆっくり動き始める。
        突然、利広、吃驚するような大声で叫ぶ。

利広「バンザイ!バンザイ!」
楯男「(ギョッとして)利広さん....」
        
利広、ひどく興奮して、両手をあげてニワトリが羽ばたくように飛び上がる。

利広「バンザイッ!バーンザーイッ!」

中島丈博・シナリオ全集『祭りの準備』より引用


映画のラストシーン。列車は遠ざかり、利広がホームで見えなくなるまでバンザイする姿があった。あのバンザイに僕は何度励まされたことだろう。人生はバンザイなんだ!人生は捨てたもんじゃないんだ!理屈ばかり言って、行動を先延ばしにしている暇なんかないんだ!馬鹿野郎!今走り出さないで、いつ走り出すんだ!
僕はあのバンザイに、何度もゴツンゴツンと頭を殴られてきたように思う。

27歳。僕は文芸地下のル・ピリエで芝居を上演することが出来た。その年の芸術祭のノミネート作品にもなった。でもそれだけだ。僕にとって、あの文芸地下で、ル・ピリエで芝居が出来て、それだけで十分満足だった。

39歳。僕はまだ走っている。祭りはこれからだと思っている。まだまだ祭りの準備なのかもしれない。それでも、僕は走り続けるだろう。自分に馬鹿野郎!しっかりしろ!と渇を入れながら、僕は走る。
僕には聞こえるのだ。はるか遠い昔、田舎の駅を出発するとき、たった一人で見送ってくれた母の姿と、心の声が。
あの時、東京に旅立つ先の見えない息子に、心の中でつぶやいていたはずだ。
「バンザイ!バンザイ!」と。

夏は人生の祭りだ。そして、祭りの準備は今が佳境なのかもしれない。

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大好きなラストシーンです。監督は「龍馬暗殺」の黒木和雄、撮影は寺山の「田園に死す」の鈴木達夫。
すばらしい!!

そして、僕は、今も祭りの準備の真っ最中!
それでも、人生は続くんだ☆
でしょ?

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