『世界大戦争』東宝 1961年 |
それが東宝の空想特撮映画『世界大戦争』でした。
このところツイートしていたので、このタイトル、何度か目に留まった方もいらっしゃったかもしれません。正直言ってタイトルがこの映画の価値を下げていると思います。「宇宙大戦争」「怪獣大戦争」等の中に入ったらまったく区別がつきません。
でもね、この映画、タイトルの凡庸さに比べるとその内容のあまりの密度の濃さに圧倒されるんですよ。
昨日ご紹介した「Go For Broke!」が埋もれたアメリカ映画の名作ならば、この「世界大戦争」も日本の映画史に残る傑作でありながら半ば埋もれた作品になっています。
僕は少年時代、恐らく昭和40年代初頭だと思いますが、テレビでこの映画初めて観たのです。
登場人物達のあっけない最後に、呆然としていたのを覚えています。我が家の白黒テレビで観た、あの最後の溶岩に飲み込まれていく国会議事堂のシーンが頭に焼き付いて、しばらく夢に見た記憶があります。
そして、東京に出てきた今から三十何年か前、池袋の名画座で今度は総天然色カラー・シネマスコープサイズで観ることができました。家族が最後の晩餐をする食卓に射し込む夕陽の色や、核ミサイルが爆発する一瞬の静寂が圧倒的に僕を取り囲んでくれた。テレビで観たあの風景をもう一度僕はスクリーンで確認したんだ。
この映画の本質は特撮のみならず、人間ドラマにあります。その人間ドラマの濃さ故に特撮が生きる。そんな作品です。
パニック、群像ドラマというのは多々ありますが、この映画はとても控えめな庶民の日常を淡々と綴ります。主人公の田村茂吉はタクシーの運転手、一生懸命仕事一筋で頑張って、ちょっとばかり株なんてものもやって、とにかく娘の幸せな結婚を願い、幼い息子には大学まで行かせようと夢中になって働いていた。保育園に預けられた少女は熱が出て頭を冷やしながら母を待っている。母は横浜で掃除婦をしている。母は電話で娘に美味しいクリームパンとゆで卵を買っていくからね、と伝える。
人々は世界で何が起きているのか知らない。政府は逐一公表することはない。
従って、人々が世界の終わりをほんの数時間前に知ることになる。
東京は逃げる人々でごった返すが、田村茂吉は家族と共に家で過ごすことにする。子供達の大好物を用意して、美味しそうに食べる子供達の笑顔を見ながら酒を飲む。病気の女房が育てた庭のチューリップが見たかった。そして、自分の行けなかった大学へ息子を行かしてやりたかったと呟くのだ。
そして、クリームパンとゆで卵を持った母は娘の待つ保育園にたどり着くことなく、最後の時を迎えることになる。
一瞬静寂になり、白く輝き、世界は瓦解していった。
この表現の丁寧さは、同時期にアメリカで創られた名作『渚にて』を彷彿とさせるものです。
どちらの映画も名作です。
キューバ危機という第三次世界大戦前夜まで行った時代のリアルがそこにあるのでしょう。ですが、今は別の危機の時代ではないでしょうか。それは以前にも増して情報統制と情報撹乱の中、リアルがなかなか見いだせないもどかしい時代の恐怖かもしれません。遠い時代の今とは無関係な物語ではなく、僕らの知るべき現実がこの映画にはあるような気がしますよ。
とてもとてもリアルな映画だと思いますね。
予告編はアメリカ版しかないそうです。いつか本編を観て頂きたい隠れた名作です☆☆☆☆☆
「世界大戦争」(The Last War)1961:東宝
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