2010年11月5日金曜日

中国について考える本☆


『変わる中国、変わらぬ中国 ー 紀行・三国志異聞』(彩流社刊) 佐藤竜一 著

ビデオが流出し尖閣諸島問題で揺れる日中関係ではありますが、昨今の中国のあり方を見て脊髄反応的に反中を掲げてもおっちょこちょいの誹りは免れないでしょう。無関心も頂けませんが、心して行動したいものです。

そんな折、僕の友人の(現)岩手大学講師である佐藤竜一君が新著を上梓しました。
かつて八十年代に中国を訪れた彼から聞かされた話はとても豊かで味わいのあるものでした。僕のあずかり知らぬ中国の細々としたお話。便所の話に始まって料理や文学、そしてやがて政治体制の話と彼との対話は忘れがたいものでありました。

今回出版されたこの『変わる中国、変わらぬ中国 ー 紀行・三国志異聞』という本は、そんな彼の体験的中国論です。
中国を愛する彼ですが、そのバランス感覚は優れたものです。
例えば、第一部・99ページから始まる「南京大虐殺記念館」に関する記述や、それに続く「国営放送の弊害」などの項では、現在の中国の抱える問題につながる党の方針に無自覚に従う中国の人々の思考停止状態に対する危惧を、短い文章の中で鮮やかに見せてくれる。中国の一般民衆の中にある「愛国無罪」的な中華思想的思考状況がしっかりと描かれています。
同時に、人々との心の触れ合いをセンシティブに描いていく。
アイリス・チャンによる「The Rape of Nanking: The Forgotten Holocaust of World War II」など足下にも及ばない中国への深い愛情と絶望がきちんと表現されている。
深い批判と絶望は、よりいっそう深い愛情から生まれるんだな。それがよくわかるんだ、この本を読むと。

この本の後半は「三国志」にさかれています。
そもそも三国志から始まった彼の中国に対する愛は、やがて宮沢賢治を経て、詩人・黄瀛(こうえい)に行き着き、政治思想よりもむしろ文学的芸術的愛情から、彼は中国という巨大な文化と再会したのだということがわかる。
だからここには調子の良さは一切ないのです。むしろ地味で静かな情熱に充ち満ちている。

彼の厳しくも優しい眼差しは、中国の人々の暮らしや学生達の息遣いまでこちらに届けてくれる。
それは相手が日本人であれ中国人であれ、筆者である彼、佐藤竜一君には他者や先人に対するリスペクトする心があるからなんだよな。
絶対忘れたくねぇな、リスペクトする精神ってやつ。
そこからすべては始まるんだよな。

旅行記であり文学論であり、同時に政治史的に八十年代以降の中国と向き合った一人の男の物語だと僕は思うよ。

みんな読んでね☆

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