2010年3月23日火曜日

The Blind Man‘s Meal

“The Blind Man's Meal” ー 盲目の男の食事

パブロ・ピカソ 1903年


この絵の中の人物が、視力を持たないことは、その手の動きで分かる。
指先の繊細な感触が見る側に伝わってくる。
五感を当然と思い込んでいる者には、感覚の欠損は想像しにくい。けれども、僕らの五感をひとつひとつ確かめることをし、確認してみると、あまりにも無意識にそれらがあることに驚かされる。

俳優の訓練法の中に、Sense Memoryという「感覚の記憶」というものがある。
五感で体験したことを、意識的に再現してみるというエクササイズ。僕の主宰するワークショップでも極力初期の段階で導入するエクササイズの一つですが、意外なほど己自身を取り巻く世界を活き活きと感じさせてくれるものなんだな。
それほど、意識的にならねばならないほど、五感は無意識の感覚なのですね。

ピカソのこの絵は、見えないという状況と、同時に視覚に変わる触覚の存在を感じさせてくれているんだな。彼の「青の時代」の傑作一つだと僕は思っていますが、最近この絵から様々なインスピレーションをもらってます。

見えないことはきついことですが、同時に世界に対する愛情が芽生える契機かもしれない。
そしてそれは、視覚に限ったことではありませんね。
実際、五感以外にも本当は、人間誰しも何らかの欠損部分を抱えているんじゃないだろうか。
そのことに意識的になれば、すなわち、世界に対する目覚めの契機になるはず。

この世には当たり前のことなどなにひとつない。
特権意識や選民意識を持つ前に、己の欠損部分に意識的になることは精神の健全を保つ上でも必要なことだと思う。なにしろ、僕らはみんな、ほっときゃ自分だけは見ないで時を過ごすものだから。他人を批判したり憐れんだりしながら決して自分を見ない。ところが、この「盲目の男の食事」という絵には憐れみも皮肉も軽蔑も、同情もない。
あるのは、単なる共感のみ。自分自身の盲目性と向き合っている。
僕のめざす演劇も、こんな所にヒントがありそうだ。

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