2006年7月5日水曜日

カラスが鳴いた

公園のベンチに座る。
午後の二時。ホームレスの段ボールハウスが鉄棒の脇にあるが人の気配はない。食べ物を調達する時間らしい。
僕は一人ベンチに腰掛け、一息ついていた。
人の多い場所が、実際あまり好きではないので、一人になれる場所をつい探してしまう。

冷たいお茶の入った缶を口に持っていき、一口飲もうとしたその時、すぐ頭の上でカラスが鳴いた。

見上げると、斜め後方のアパートの屋根にカラスが一羽とまっていた。
カラスは再び声を上げると、その隣のアパートの屋根へ移動する。
不思議だなと思ったのは、いつまでたっても、そのカラスが周辺から移動しないことだった。

ははぁ、ホームレスの残した食べ物でも狙ってるんだな、と僕は思った。
あるいは遊びに来た子供たちの落としたお菓子の欠片でも探しているのかもしれない。
何しろ、そのカラスは異常なほど屋根の上から下を見下ろし続け、何度も何度も鳴き続けるのだ。

静かな空間を求めてきたのに、こうカラスに叫かれたのでは落ち着かない。
僕は、手に持ったお茶を飲み干すと、立ち上がり、その場を去りかけた。
その時、段ボールハウスのすぐ脇に黒いものを見た。
僕が近づこうとすると、屋根の上のカラスが更に大きな声で鳴く。

僕は足を止めた。
地面に転がっているのは、黒い羽の小さなカラスの雛だ。
雛は死んでいた。

僕はゆっくりと踵を返し、その場を離れた。

背後でカラスが鳴いた。

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