2005年11月23日水曜日

自然について

エマーソンというアメリカの哲学者は、アメリカという国の善き部分を体現する数少ない人物の一人である。
彼の作品の中に「自然について」という随筆がある。
まだ学生だった頃、貪るように読んだ本の一冊がそれだった。

自然とは何だろうか?
我々人間の手の届かない不可侵の領域。この世でともに人間が生きざるを得ぬもの。我々を取り巻く環境そのもの。どれほど科学や技術が進もうと、決してすべてを了解することのできぬもの。神の宿る場所。・・・・等々。

人によって思い描くイメージは様々である。ある人にとっては憧れの対象であり、ある人にとっては脅威を抱く存在。またある人にとっては利用すべきものであり、またある人にとっては守るべき脆弱な対象かもしれない。

僕にとって自然とは、僕自身である。
青春、朱夏、白秋、玄冬という言葉がある。青春ばかりが輝かしい季節なのではない。人は若葉が咲く春に生まれ、成長し、真っ赤な太陽の光の中で生き抜き、枯れ葉が舞い散る頃、人生の味わいを少しばかり感じ、やがて奥深い冬という闇の中に人生を終える。
人はその途上のどこで生を終えたとしても、確実に自然そのものである。

己の中の自然を感じたい。

知識や理論、それをひっくるめた理性は、人間の特性かもしれないが、感じる力という意味の感性も同じ重さで受け止めたい。

僕は子供を宿した妻のお腹に耳を寄せたとき聞こえてきたあの音を、決して忘れない。
僕は聴いたのだ。
妻の身体の中で、海の波の音がするのを。そして、その更に奥深いところで流れる深海の水の音を。僕は彼女の中に海を見た。

人は確かに自然の一部なんかじゃない。自然そのものなのだ。

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