2013年3月5日火曜日

TPPに関する覚え書き

ここ数日は大学の新年度の講義ノートを作成しつつ資料の整理をしている。
いくつかこのブログにもメモっとこうと思う。


まずは、去年同様今年も触れなければいけないのが「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」についてである。

先日の某産経新聞によると:
「国益守る」条件に容認 自民調査会 TPPで決議
産経新聞2013年2月28日(木)08:02
 自民党の「外交・経済連携調査会」(衛藤征士郎会長)は27日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加について、国益を守り抜くことを条件に容認する決議を採択した。安倍晋三首相はこの決議や党内議論を踏まえ、3月上旬にも交渉参加を正式表明する方針だ。
 決議は政府に対し「守り抜くべき国益を認知し、どう守っていくのか明確な方針を示すべきだ」と主張。「守り抜くべき国益」の具体的項目として

(1)コメ、麦、牛肉、乳製品、砂糖など農林水産品の関税
(2)自動車の排ガス規制や安全基準などの維持
(3)国民皆保険制度の維持
(4)食の安全安心基準の維持
(5)国の主権を損なうようなISD条項(投資家と国家間の紛争条項)には合意しない
(6)政府調達やかんぽ、郵貯、共済など金融サービスのあり方は日本の特性を踏まえる-を明記した。
 
このほか、混合医療の全面解禁を認めないことや、医師や弁護士など資格制度や放送事業における外資規制、書籍の再販制度の維持などを挙げ、「わが国の特性を踏まえる」よう求めた。反対派の議員連盟「TPP参加の即時撤回を求める会」の主張に最大限配慮した内容だ。会合では新たに外交・経済連携調査会の中に「TPP対策委員会」を設置することも決定。委員長には反対派の西川公也衆院議員が指名された。
 公明党も27日の会合で、交渉参加の判断を首相に一任する方針を確認した。

ーーーーーーーーーーーーーーー以上引用終わり

いやはや、この前の選挙の時と打って変わった首相のTPPに対する積極的な参加姿勢。
国益を守り抜くと言いながら、上記の(1)~(6)のうちひとつでも「聖域なき関税撤廃」に含まれないものがあれば、首相判断で即合意、という話らしい。
このかつての「日米修好通商条約」にも似た明白な不平等条約によって、単純に国益が損なわれるだけではないのですよ。
例えば、コメを聖域と見なす、と言ったからといって、他は米国の多国籍企業の要求に従わざるを得ぬのだろうか?ちょっと待てよ!(1)~(6)は漏れなくすべて主権国家足る我が国の自国内で決定すべき重要項目である。これらの項目に外国が要求すること自体そもそも内政干渉だろう。しかも、それを企業や投資家が行うことになるのである。しかし、いつの間にやら、これが当たり前の状況になっている。驚くべき事に、「守り抜くべき国益」といって上げたものはすべて、実際、米国の多国籍企業が標的にしているものそれ自体だということ。これらの項目は取引する対象ではそもそもないのだよ。

TPPには「ISD条項(投資家と国家間の紛争条項)」がある。
ISDとは、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策により、海外の投資家が仮に不利益を被ったとする、その場合、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度である。日本が海外の投資家に損失を出した場合、その賠償を日本政府が行わなければならないのである。先日、米韓FTAにおいても、韓国はアメリカに莫大な賠償金を払ったばかりであり、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)においても、同様の事態が起こっている。国家の主権が蹂躙されているのである。これは今後の日本の未来と考えられるのだ。

更にTPPには「ラチェット規約」という条件が付随していることも忘れてはならない。
ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車のこと。ラチェット規定とは、現状の自由化よりも後退を許さないという規定。
このことによって、一旦TPPで決定したことは、後戻りすることなく、徹底的に推し進められることになる。一度実験的に参加してみるという類いの条約では決してない。このラチェット規定が入っている分野は、「銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐にわたる」そうだ。どれも米国企業に有利な分野ばかり。
このように確認してみると、如何にTPPというものが邪悪で有害なものかが分かってくる。
経団連はこのTPPをなんとしても推し進めようとしているのだから、経団連という組織の性質もよく分かるというものだ。そして、そうした動きに追随するメディアの論調も相変わらず、大東亜戦争の真っ最中と変わらぬ腰巾着ぶりである。戦争中あれほど国威発揚を叫んだ朝日新聞が、今やTPPに擦り寄る報道を行うのだから、まったく長いものには巻かれろ、もしくは、付和雷同を地でいったものと見なすことにする。
しかしながら、このTPPの動きを米国だけが得をする条約と考えたら、それも間違いになる。
この動きは米国国民をも不幸にする条約なのだ。TPPで利益を得るのは米国ではない。多国籍企業である。だからこそ日本の経団連も一丸となって推進しようとしているのである。まさに、世界中の多国籍企業という、その企業の利益によって政策が支配されるというおぞましい姿がTPPの本質なのだと思われる。
コーポラティズム(Corporatism)という言葉がある。
本来は、共同体を人間の身体組織のように見なした政治や経済や社会の組織のシステムの1つのことである。
だが、ここでは本来の意味とは異なる「コーポラティズム(Corporatism)」が問題になるのです。
この場合のコーポラティズムとは、「大企業と政府が一体になった国家運営体制」を言います。その意味で、今グローバルな形で進行している様々な世界の歪みは、デモクラシーという民主化へのこれまでの幻想から、実際はコーポラティズムへのドラスティックな変容過程なのだと思われます。世界は決して民主化などされてはいない。世界は急激にコーポラティズムへ移行しているのだと思う。


とても質の良い情報源であるアメリカの「デモクラシー・ナウ」という番組が鋭いTPP批判を行っています。

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