2013年3月9日土曜日

ポストグローバル社会の可能性

『ポストグローバル社会の可能性』
最近読んだ本のご紹介です。

タイトル『ポストグローバル社会の可能性 』
ジョン カバナ (編集), ジェリー マンダー (編集), John Cavanagh (原著), Jerry Mander (原著), 翻訳グループ「虹」 (翻訳) 

内容(「BOOK」データベースより)
世界貿易機関(WTO)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行などが中心に推進している経済のグローバル化は、世界を急速に蝕んでいる。本書は、経済のグローバル化がもたらす影響を、文化、社会、政治、環境というあらゆる面から分析し批判することを目的に創設された国際グローバル化フォーラム(IFG)による、反グローバル化論の集大成である。「グローバル化を求めないのなら、何をめざすのか」という問いに、あらゆる側面からこたえることを通じて、ポストグローバル社会を構想する。仏・独・西・中など8カ国語で翻訳出版されている本書は、グローバリゼーションを考えるための必読書。 (引用終了)

ということで、2006年の11月に初版が出たこの本は、七年近くも経つというのに今だ議論は古びてはいません。
むしろ、現在を把握する上で非常に貴重な資料で溢れています。
残念ながらamazonでも扱っている冊数が少ないらしく、中古で手に入れるしかない場合もあるかもしれません。でも、ぜひ手にとってじっくり読んで頂きたい書物のひとつです。
この本の興味深い部分は大きく分けて二点あります。勿論、様々な議論全体が興味深いのですが、「コモンズ」に関する部分と、「オールタナティブ」の部分が秀逸です。

コモンズとはcommons(共有物、共有財産)ぐらいの意味かな。
しかし、この意味するところはとても深く重要です。というのも、今、全世界的にコモンズの民営化、すなわち公共の共有財産であったものが民間企業に売り渡されているのです。
例えば、アルゼンチンやボリビア、南アフリカ、インド、カナダ、米国、といった場所で次々と「水」が公共から企業による私有へと取って代わられているのです。ですが、これらの国々ではこの人間が生きる基本的財産である「水」を公共の手に取り戻そうと反対運動が起こってボリビアなどでは、水を独占した多国籍企業であるベクテル社の計画を放棄させました。コモンズとは元来は「共有地」の意味ですが、今やもっと広い意味で使われはじめているわけです。コモンズを守らねばならない。
また例えば「遺伝子」や「国民皆保険制度」などもコモンズの範疇に入るものです。

(本書P183から引用)
『国際技術評価センターのアンドリュー・キンブルによると、「いま企業は、金銭的に価値の高い植物、動物、そして人の遺伝子はないかと地球を隅々まで探し回り、あたかも自分の発明品であるかのようにそれらの私的所有権を主張しようとしている。すでに数千に及ぶ遺伝子特許が企業に与えられていて、これらの企業は今やあらゆる生き物の特許をとって、それを私物化することができる」。
こうした活動のほとんどは、生命科学産業によって行われている。モンサント、ノバルティス、デュポン、パイオニアなどの企業は、WTOのTRIP協定(貿易関連知的所有権協定)によって膨大な恩恵を与えられてきた。この協定はこれからの企業に対して、遺伝子操作を行えば植物や種子の品種の特許をとることができると認めているのだ。」

生物に対し、遺伝子まで特許が認められてしまえば、人間存在のアイデンティティさえも商品化されてしまうのではないか。今気軽に行われている家庭菜園も種子の特許化が進む中で、禁止される可能性が出てくるのではないか。いや、実際すでに家庭菜園禁止の方向が出ているのですが。特定の企業による特許化が進み、様々なコモンズが占有されていく様子が見えるのです。コモンズとは本来何者かによって占有されてはならない世界の欠くことのできない部分。コモンズとは商品化してはならないもののことです。

オールタナティブとは代替案のこと。
果たして、現在のグローバル化の後、我々はどこへ向かえばいいのか。この問に対する答えは、ひとつではない。そして、ひとつにしてはならない。
例えば、ここに一つの提案がある。ブレストンウッズ体制の三つ子である「世界銀行(WB)」、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)という機構を全廃する。そして新たな国際機構に置き換えたらどうだろう。この書物の提案は率直にして明快である。現在我が国が巻き込まれているTPPという環太平洋戦略的経済連携協定も、実はその背後にこれら三つの機構が深く絡み、ISD条項という国の政府よりも他国の投資家を優先する考え方も、全てこれら三つの機構が絡んでの話なのである。


一筋縄ではいかない現代のこの「新世界秩序(New World Order)」への道程を疑問視する者は、この書物を是非読まれることをお勧めする。
この国の貴重な農業のみならず、国民皆保険制度の解体、国の固有の文化の破壊もしくは収奪までもくろむ現在のグローバリゼーションの波をなんとか押しとどめたいものです。
この書物にそのヒントがあるような気がします。

0 件のコメント:

Powered By Blogger