と五歳になる娘が言った。
「パパはそんなにしごとが好きなの?」娘は僕の膝の上にいる。書斎。
僕は夢中になって、パソコンに向かいキーボードをひっきりなしに叩いている。
ふと見ると、膝の上の娘が肩越しにこちらを見上げている。
僕はキーボードを打つ手をとめ、娘を正面から抱きかかえる。
「どした?」僕が訊く。
「ねぇ、ほんとはもっと大事なことがあるんじゃない?」
「うん?」僕は彼女の顔を見る。
すると、娘は、じっと僕の顔を見つめて、言った。
「みんなにあいにきたんだよ」
僕は何の事やらわからない。
「パパの男くさい声を聞くために、太ったおなかをさわるために。
ママの怒ったり、笑ったり、優しい目を見るために。
お姉ちゃんとけんかして、なかよく遊ぶために。
あたしは、みんなに、あいにきたんだよ」
子供は、ほんのちょっと前にエデンの園にいたのだ。
ひょっとしたら、まだ彼女の一部はエデンの園にいるのかもしれない。
この子が僕らに会いに来たのは、本当だろう。
そんなことを、大人はとっくに忘れて生きている。
でもね、僕も君に会いに来たんだよ。
君と、君のお姉ちゃんと、ママに。
子供たちの声には、子供たちの言葉の中には、自分もかつて暮らしていたであろうエデンの園の香がする。
そして、この愚かな父に、子供たちは、いつも勇気をほんのちょっぴりくれるのだ。
ありがとね。あいにきてくれて。