2009年7月29日水曜日

九十年代の名作

もし僕が九十年代の映画を二本挙げろと言われたら、迷わずに岩井俊二監督の『Love Letter』と『スワロウテイル』を挙げるだろうと思う。
『Love Letter』は時間を超えた、不思議なラブストーリー。そして『スワロウテイル』は近未来の円でのさばる日本と海外からの移民の暮らしを描いている。

はじめて観た時、僕が感じたことは今も変わらない。
彼、岩井俊二監督は映像の人ではあるが、どこか舞台の演劇を感じさせる人だ。濃い人間関係の対立と葛藤をこれでもかと言わんばかりに描くわけではないのに、登場人物の不合理な疑問や、心の中の言葉にできない苦しさや嬉しさが、画面からこぼれるように溢れ出てくる。しかも静かに。

ことさら日常を描こうとせず、荒唐無稽な状況をあえて選び、その条件の中で、もがく人間を見つめているんだ。
なにも起こらない日常を、なにも起こらないまま描いてリアルだと主張する人間は、恐らく岩井俊二は観ていないか、観ようとも思わないに違いない。
でも、ぜひ観てみるべきだ。
まず、音楽があり、映像があり、人間がいる。しかも、静かに苦闘する人間が。
自己正当化をリアルとは呼びたくない。
今の現状をただ描写しリアルに胡座をかく、自己満足しているリアリストに未来はない。
格闘しているふりをしながら、彼らは怠けているから。
現状を肯定し、人間は下らない、と言ったところで、なにがある?なにが生まれる?

『Love Letter』の主人公はひょんなことから忘れたい過去と向き合うことになる。向き合おうとしたからこそ、本物のラブレターを予測もしない形で受け取ることになる。人生はくだらなくなんかない。ラストのワンカットが胸を締めつける映画です。

『スワロウテイル』は金、金、金がテーマなはずなのに、人間の心に在る「詩」のようなものに気づかせてくれる。それは恥ずかしいぐらい「愛」と「音楽」の物語なのさ。

ひたすら人間の醜さをあげつらいニヤニヤと笑いものにするリアリズムはもうお終いにしよう。
この二つの九十年代の作品は今観るに値するかもしれない。

『Love Letter』1995



『スワロウテイル』1996 “ Swallowtail Butterfly ~あいのうた~”

2 件のコメント:

さとじゅん さんのコメント...

『Love Letter』は本当に素敵な作品だと僕も思います。

ラストシーンに使われた書物がまた良くて。

岩井さんの作品はどの作品も詩情が溢れている気がします。
じっと目を凝らしたら目を凝らしたものを返してくれる映像作家だと思っています。

横浜博で岩井さんの新作が見られるそうですが、上野先生はご覧になられたでしょうか?

火山 さんのコメント...

やぁ、こんにちは!

横浜博というのは『BATON』だね。残念ながら、横浜博には行けそうもないので、観られないなぁ。

彼は技術面では新しいテクノロジーを積極的に取り入れながら、亡くなった市川崑監督に対するリスペクトを持ち続ける温故知新の人だよ。

いろいろ批判も多いけれど、そんなところが僕なんかも好感を持つ部分なんじゃないかな。少なくともリスペクトすることを小馬鹿にした団塊と結びついた八十年代の人間じゃない。真摯に映像や物語と向き合っている。

またね!

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