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2007年9月16日日曜日

ケーニヒスベルクの男


ケーニヒスベルク。現在のカリーニングラードというかつてはプロイセンの支配下にあり、第2次大戦後はロシアの支配下に置かれた街。七百年もの間、ドイツ人を中心にした街だったので、今でも北東プロイセンと呼ばれることもある。

この街にかつて、生涯一度たりともこの土地から離れたことのない男がいた。
毎日、規則正しく、同じ時刻に家を出、同じ時刻に戻ってくる。そのあまりの正確さに、男の歩く姿で時間が分かったほどだ。雨の日も風の日も、毎日同じ時刻に家を出て、大学で講義し、同じ時刻に帰ってくる。
その男の名はイマニュエル・カントといった。

狭い、本当に狭い生活空間と体験の中で、人類に価値の転換を迫った男の生涯から、想像の力という実体験以外のもうひとつの力の存在を感じ取ることができる。

常識の中で暮らし、平凡な日常を過ごし、規則正しく生き、それを通し、だからこそ頑なな時代の認識、或いは価値観に「否」を突きつけることができたのだ。純粋理性というキリスト教的教義の不寛容に、ケーニヒスベルクという町の中で気づき、告発することができた。

時代はメインストリームで変化するのでない。
フロンティア、つまり辺境で変化の兆しが現れるのである。
ケーニヒスベルクのこの地味な男の生涯は、この事実を雄弁に物語り、教えてくれている。



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