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2009年10月6日火曜日

寅さんからの手紙


渥美清

「まあ、どっちかっていえば 性格的に明るい方だからな、俺。」
「ほら、見な、あんな雲になりてえんだよ…」        
                                                ー『男はつらいよ』寅次郎のセリフより


映画「男はつらいよ」を一番よく観たのは、七十年代。特に73~78年ぐらいだったと思う。
中学生の時、公開する度に岩手の地元の映画館に通っていたのを覚えています。
この名作シリーズも、松竹のプログラムピクチャーとして不動の地位はあったものの、ある時期からマンネリなどと言われ、映画をあれこれ語る人間達からは「通俗」のレッテルを貼られるという、不幸な時代がありました。

映画を芸術行為と見なす人々からは、寅さんの映画は芸術ではなかったわけです。
僕には、不思議でならなかった。超マンネリかもしれないけど、オープニングの江戸川のシーンを毎回見る度に、東京の下町の太陽の光を感じたし、映画館に響き渡る寅さんの口上に「映画」を観てるんだと何度も頭を殴られるように覚醒したものでした。

いつの時代も、常に「新しさ」ばかりが有り難がられ、大事なものが置いてきぼりになってしまう。そんなことが繰り返されてきたように思います。

僕は「男はつらいよ」を愛する者です。
怪獣もアクションもない、とりたてて華やかなものはなにひとつないこの映画こそ、岩手で暮らした僕に、ドラマの持つ喜びと悲しみと怒りを教えてくれました。


恩師の散歩先生 
「俺が我慢ならんことは、お前なんかより少しばかり頭がよいばかりに、お前なんかの何倍もの悪いことをしている奴がウジャウジャいることだ……。こいつは許せん、実に許せん馬鹿どもだ、寅。」

「私より馬鹿がおりますか。」
          (第2作「続男はつらいよ」より)


良いものを良いと言える人間でありたい。
己の心が動いたものを信じたい。
それは人と人との関係でも同じです。
当たり前のことですが、表面の、その奥深いところを、僕は見たい。

「男はつらいよ」という映画は山田洋次という監督が生みだし、寅さんという架空の人物が、リアリティーを持って僕らに送ってくれた、一枚の手紙だったのではないかと思います。
渥美清さんという俳優は、「泣いてたまるか」というテレビドラマと、この「男はつらいよ」を残してくれました。
だから、僕らは寅さんからの素朴で力強い手紙を、今も読むことができるんですね。
素晴らしい映画に感謝!!!


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