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2006年7月25日火曜日

せんこうはなび

「線香花火みたいなもんなのかね・・・」
線香花火の先端の小さな火球を見つめながら、彼が言った。

近所に住む娘たちの同級生の家族と、花火大会をするようになって5年が経つ。
今では決まった夏の行事になっている。

今年も四家族、合計十六人が我が家の目の前の公園に集まり、まずは食事会。それからいよいよ花火大会だ。打ち上げ花火を中心に集めて持ってくる家族。地面において派手な光の噴水を撒き散らすドラゴンをたくさん持ってくる家族。わりと地味な線香花火系を持ってくる家族。皆で持ち寄った花火に次々と着火していく。
辺り一面に火薬の喉をヒリヒリと刺激するような匂いが立ちこめ、蚊に刺されながら、大人も子供も無心になって花火を見つめている。
子供たちの叫び声と笑い声が空気に充満する。
身体を壊して落ち込んでいた人も、仕事に追われ疲れ切った人も、職場の人間関係で鬱気味だった人も、大人たちもみな笑っている。

そんなとき、彼がふと言ったのだ。
「線香花火みたいなもんなのかね・・・」

「なんで?」と僕。
「子供たちがさ、大きくなったら、俺たちはもうこんな風にして集まることもないんだろうな」
彼はそういうと、眼を大きく開きながら線香花火を見つめる。
「んなことないさ。んなことないよ」
僕は言う。

子供を理由に集まっているが、職業も違えば、生き方も違う親たちである。
子供たちの関係がなくなってしまえば、もう会うことはないのかもしれない。

でも、と僕は思う。
でも、親父として君がどれほど息子たちと妻を愛しているのか、僕は知っている。
だから、僕は君を尊敬し人生の同志と思っている。
たとえ、時代が変わり、場所が変わっても、君は愛情のある人生を歩むだろう。
線香花火のかすかな火花のように、一生懸命君は家族を愛するだろう。

僕が彼に言いかけようとした、その瞬間、彼の線香花火の火球が落ちた。
振り返ると僕を見つめて、彼は言った。

「わかってるさ」
そして、にやりと笑った。

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